約10年ぶりに訪れたタイは、古き良き東南アジアの趣を残しながらも、経済成長で進む開発に国際情勢も絡み、以前とは異なる姿に変容している。今回のタイ旅行で感じたパラダイムシフトを記す話。
日本人はもはやマイノリティ、ロシア人観光客が急増
プーケット島の通りを歩いていると、どこからともなく聞こえてくるロシア語。語学のレベルで言えば、いくつかのフレーズを学生時代にシベリア鉄道に乗ってロシアを旅行するために覚えた程度だが、一応、それがロシア語かどうかくらいの判断はできる。
街を歩けば、そこらじゅうにロシア人を見かけると言っても過言ではないほど。ロシア人観光客は30日までならビザなしでタイに入国できていたが、それが2024年の4月末までは暫定的に90日まで延長されているのが影響しているのかもしれない。
さらには、ウクライナとの戦争でヨーロッパ諸国の風当たりは強く、旅先でゲストとして温かいおもてなしは期待できないだろう。タイならば、欧州ほど冷遇はされず、かつ年間を通して温暖な気候で迎え入れてくれる。
また、戦争の影響で、資産凍結や通貨ロシアルーブルの下落などの影響を回避するため、プーケット島のコンドミニアムや邸宅に投資したり、あるいは徴兵を逃れるために、海外に長期滞在したりするケースがあるようだ。
観光産業の依存度が高いタイ経済にとっては、ロシア人観光客は新たな顧客。ローカルな食堂のメニューにもロシア語が表記されていることからも、ロシア人観光客の急増が伺える。
ビーチで目にしたロシア人の気前の良さもタイ人に受けがよいのかもしれない。ビーチパラソルのレンタルとビールを飲んだロシア人カップルが清算をする際、英語でのコミュニケーションには苦労しているようで、タイ人の従業員が砂浜に600という数字を書いて、会計の値段を知らせる。1,000バーツ札(=約4250円)を支払ったロシア人観光客は「釣りはいらねぇ」と去っていった。また、別のロシア人は、自分がビールを注文する際、ビーチで働くタイ人4-5人にもビールをご馳走するなど、太っ腹。
一方の日本人観光客。かつては、タイの観光客の常連だったが、メニューで日本語表記をみかけることはなく、ゴールデンウィーク期間中の数日は、1日に2,3組の日本人を見かけたが、いまのロシア人観光客のようにあちこち日本人がいるという感じではなくなった。
夜の街をあるいていてもその変化に気付かされる。ロシア人女性によるラウンジやショーパブが幅を利かせ、以前は、歩いていると「社長さん~」「かわいい娘いるよ」とタイ人から片言の日本語で話しかけられたものの、もはや日本人は太客ではなくなったのか、声もかけてもらえない寂しい状況。円安で日本人の海外旅行が遠けば、その存在感はより一層薄れていってしまうだろう。
ロシア人観光客以外にも、人口世界1となったインド、さらにサウジアラビアやオマーン、ドバイといった中東からの客の姿も目に付く。自国では戒律の厳しい中東諸国からの観光客は、羽を伸ばせる旅先としてタイは人気なのかもれしれない。
隆盛極める大麻ショップ
東南アジアで初めて大麻を合法化したタイ。2022年にはその栽培と一般使用も認められ、街のいたるところに目につくのが大麻ショップ。
美しいビーチに、バラエティー豊かな食事、温暖な気候と観光客を魅了する要素がいくつもあるタイにとって、ツーリズムの起爆剤としての大麻は不必要にも思えるが、街の大麻ショップには観光客の姿が目立つ。
雇用の促進という面ではプラスもあるのかもしれないが、隆盛を迎える大麻ショップの陰で、今回の旅で全く見かけなくなったのがインターネットカフェ。もはやスマホでほぼ全ての事が片付く時代には、お役御免なのだろう。
デジタル化が進むご時世だが、タイは日本と同様、現金志向がまだまだ根強く、クレジットカードを受け付けない場所や、手数料を価格に上乗せする店舗も。セブンイレブンでも200バーツ以上でなければ、クレジット払いを認めないなど、まだまだ現金が必要になる場面が多い。
そのせいか、大麻ショップに負けず劣らず、両替屋さんも街角のあちらこちらで見かける。移り変わりが激しい観光地において、アナログの両替屋さんが依然として存在感を示しているのには、個人的にはカード払い派だが、ほっとする光景。
防犯カメラで治安改善?清潔度もアップ
学生時代に初めてタイを訪れた際には、街を歩いていてひったくりやスリに遭わないか、常に警戒心を緩めなかったが、今回のプーケット島の旅行では、その警戒心のレベルを少し下げても、安心して旅行できた。
適格な統計を目にしたわけではないが、肌感覚としては観光地の一般的な治安はまずまず。治安に関して、何人かのタイ人に尋ねてみたら、そのうちの1人は、監視カメラの設置台数が増えて抑止力として機能しているから、盗みを働こうというマインドセットがないと説明してくれた。
カメラで監視する社会の是非の議論は置いておいて、旅行者として治安を過度に気にしないで済むのはありがたい。
治安とともに変化を感じたのが清潔さ。特に、ビーチそばにあるトイレには驚き。もちろん有料だったというのはあるかもしれないが、海外では有料なのに使用するのが憚れるトイレも多数あるなか、プーケット島のトイレは清潔そのもの。オフィスビス内のトイレとも遜色ないくらいで、心地よく利用することができた。
次回、タイを訪れるのがいつになるのかはまだ未定だが、新しい変化への楽しみと既存のものが失われる寂しさが混ざり合うなか、今後はどのような変貌がタイを待ち受けているのだろうか。