12月を迎えるとベネズエラの街並みは、他の国と同様にイルミネーションが通りを彩り、クリスマスムードが一気に高まる。もっとも、以前のブログ記事で紹介したように、10月からこの雰囲気が漂っていたが、いよいよクリスマス本番の12月に入ると飾り付け以外にも、食事の準備が始まる。今回は、クリスマスディナーのメニューを中心に、イブからクリスマス当日までのベネズエラ人の過ごし方の一例を紹介する話。
クリスマスディナーの定番はアヤカ
師走になっても、年中安定した温暖な気候は、その季節の移り変わりを肌では感じさせてくれない。しかし、市場に出かけると、いつもは見慣れない、植物の葉がベッドシーツのように積まれている。どうやらこれはバナナの葉で、クリマス料理の定番アヤカ(Hallaca)には欠かせないようだ。ベネズエラ人がアヤカの話をした際、はじめのうちは日本人女性の名前と勘違いしていたくらい。
せっかくベネズエラでクリスマスを迎えるのなら、聖なる夜にアヤカを食べるだけでなく、アヤカ作りそのものを体験したほうがいいという地元の友人の提言により、クリスマスの前の週末にアヤカ作りに挑戦。
まずは、あのバナナの葉についた汚れを落とすべく、1枚1枚丁寧に拭いていく。この葉に包んで煮込むので、清潔にしなければならない。この工程、作業自体は簡単なのだが、なにせ一度に作るアヤカの量が半端ないので、拭いても拭いてもバナナの葉がなくなる気配がない。
最初の工程だけでも1時間以上の時間を要し、すでに疲労の色が隠せない。
次にトウモロコシの粉でベースを作る。水ではなく、肉を湯掻いたゆで汁を使用することで、味わいに深みが増すようだ。生地をこねてしばらく寝かせる。パン生地よりは、その工程はシンプル。
中に入れる具材は、牛・豚・鳥の各種肉の混ぜ合わせ、オリーブ、レーズン、ひよこ豆、玉ねぎ、パプリカなどの野菜。各家庭のアヤカに具材の特徴があるようだ。肉の下準備は、事前に友人が済ませておいてくれたので、アヤカの生地ができたら、早速、具材を包み込んでいく。
まずはイカ焼きのように、生地をプレスして円形に整える。あとは、その上に思い思いの具材を載せる。友人のレシピはひよこ豆を入れないようで、用意された肉、レーズン、オリーブ、玉ねぎ、パプリカをトッピング。
次に、巻き寿司のように海苔ではなく、きれいに汚れを拭き取ったバナナの葉で巻いていく。さらに、タコ糸で葉を縛り付ける。
バナナの葉っぱを拭いている時は、あまりの退屈さに正直帰りたくなったが、ビールを飲みながら友人たちとわいわいアヤカ作りを楽しんでいると、76個のアヤカが完成。家庭によっては100個、200個も作るところもあるようだ。やはりクリスマスは一大イベント。
後は、この包まれたアヤカをお湯で少し煮込む。中の肉はあらかじめ調理されているので、アヤカの生地が固まる程度にお湯に通す。
中南米でよく見かけるタマルという料理に似ているが、具材の種類の豊富さがアヤカを特徴付けるようだ。普段は脂っこい印象を受けるベネズエラ料理だが、このアヤカに関しては、ミックスされた肉が詰め込まれているが、料理方法は煮込みなので、それほど胃に重い負担がかかりそうにはない。
クリスマスを前に、定番メニューのアヤカ作りから経験させてもらい、少し早いクリスマス気分を味わった一日。
聖なる夜は肉づくし
アヤカ作りも経験できたので、クリスマスの思い出は十分と思っていたら、友人から24日当日にアヤカ以外の定番メニューも食べるから是非、クリスマス会に参加するようにお誘いを受ける。
そこで目にした光景に一瞬、目を疑わざるを得なかった。アヤカは先日、自ら作った経験があったので、どのような料理かも理解できていたが、アヤカのお供となる他の料理に注目。
アヤカと肩を並べるクリスマスの定番の一品がパン・デ・ハモン。文字通りパンにハムが挟まったハムパン。オリーブも混ざってはいるが、少し甘さを感じるパンと、ハムの塩気のミックスがたまらないらしい。アヤカには敬意を払うが、このハムパンは、パンにハム入れただけで、何が特別なのか理解できないが、このパンを入れる専用の箱が、クリスマスの時期になるとパン屋に飾られてムードを高めていた。
アヤカとハムパン、すでに食事のコンビネーションとしては肉肉しいので黄色信号だが、ここにサラダが加わる。栄養のバランスを考えてと思いきや、このサラダにも鶏肉が含まれている。すべての品がメインのポジションを競い合っている感じ。
さらに、友人の両親が作ったというローストポークも加わり、お皿の上は肉のオンパレード。
健康的な体にいい食事という概念は、この際クリスマスなので忘却の彼方へ。それにしても肉肉しい…。その上この重い食事を24日から25日に日付が変わる深夜に食べるというのだから、あっぱれ。
花火に音楽、ダンスで終わらない夜
午前0時にクリスマスディナーが始まるので、逆算して23時頃に友人宅に到着して、食事を終えて1時くらいに帰宅しようと計画をしていたが、思惑通りにいかず。
到着した頃は、お手製のゲームで皆が盛り上がっている。それぞれの催しが時間付けされているはずはなく、いつ終わるとも知れず。気が付いたら、今度はプレゼント交換に。1つ1つプレゼントを開けて紹介するので、想像以上に時間を要する。
小さな子供が1人いたので、その子を中心にして興奮が最高潮に。
気が付けば、プレゼント交換の途中で、25日までのカウントダウンが始まる。日付が変わると、皆とハグを交わし、その交流を盛り上げるかのように、ご近所のあちらこちらから花火が打ち上げられ、爆竹のけたましい音が辺りに響き渡る。
しばらく、テラスから見える花火を皆で楽しんだ後、我に返ったようにプレゼント交換に戻る。午前1時を過ぎてようやく全ての贈り物が開けられ終了。当初の思惑では、もうこの時間帯に帰宅しているはずが、ここからあの肉肉しいクリスマスディナーをいただく。アヤカとサラダくらいまでは、なんとかこの遅い時間でも胃に運ぶことができたが、パンと、ローストポークは見ているだけで、胃がもたれそう。
ただ、招待していただいたので、食べ物を残すのは失礼かと思い、なんとか完食。しばし、休憩を目論んでいると、今度はダンス音楽が流れ出し、踊りが始まる。
日本人だからラテンの音楽で踊れないだろうという先入観が漂う中、ほとんど忘れてしまったが、コロンビアで教室に通って習得したサルサの基本的な動きがまだ体に残っていたので、それを披露。すると、盛り上がりに拍車をかけてしまい、汗ばむほど踊りに熱中になってしまったかと思えば、例の肉肉しい食事がまだ消化できていないうちに、体を動かしたので、一瞬、嘔吐しそうになってしまう。
さすがにこれは帰宅のサイン。時計に目をやるとすでに午前3時。さすがにおいとましよう。友人宅のみならず、ご近所のクリスマスパーティーはまだまだエンドレスな雰囲気を漂わせていたが、ここが引き際。
ベネズエラのクリスマスをローカルに堪能させてもらった一夜の思い出となった。