自主隔離中のホテルのベッドに横たわっていたある日の午後、突然部屋の電話が鳴った。コロンビアに入国してから3日目。前日に受けたPCR検査の結果をわざわざ電話で知らせてくれるのかと思いや、その相手は検査機関の担当者ではないようだ。丁寧な言葉遣いは、入国後の体調について聞き取り調査をしたいという保健当局の担当者だった。なぜ、5つ星ホテルに遠く及ばない、地方都市のこんな小さなホテルに滞在していることが分かったのか。誰かに行動を監視されているような気がして不気味さを覚えた。
どうやらCheck-Migという出入国手続きアプリにおいて、事前に登録された滞在先のホテルの情報に基づき、入国者にコンタクトを取っているようだ。不信感にさいなまれているこちらの心情をよそに、担当者は矢継ぎ早に、熱はないか、咳は?基礎疾患の有無など質問を浴びせてくる。相手が外国人と分かっているのか、スペイン語でテンポよく畳み掛けてくる。担当者にしてみれば、何人にもコンタクトを取らなければならないので、無駄なく業務を済ませたいのだろう。その証拠にこちらの冗談めかした返答には一切、乗る気配もみせてくれなかった。ひとまず、現時点では症状がないので問題はない、必要があればまた連絡すると、会話の開始時と同様、丁寧な口調で電話を切っていった。
■陰性証明で隔離措置の義務付けなし
入国時のPCR検査が実施されなかったコロンビアの空港では、水際対策は皆無に等しいという印象を受けていた。実際、出発の96時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明があれば、入国後の隔離措置も求められていない(2021年4月時点)。しかし、入国者に対して経過観察としてのモニタリングは適宜実施しているようだ。
この保健当局からの電話の前日、勤務先の同僚からは5日間のホテルでの自主隔離、期間を短縮したければ、自主的にPCR検査を受けて陰性を証明するように指示を受けた。ワッツアップで共有されたクリニックにメッセージを送ると、PCR検査を手配してくれた。一応、自主隔離期間中のため、検査機関には直接出向けず、滞在しているホテルに看護師を派遣してもらうことになった。午前に連絡したので、同日の午後には看護師が到着するとのこと。メッセージのやり取りをしている最中、あまりに事が順調に行き過ぎているような気がして、結局のところ、今日の予定というのが、看護師が到着しなかったというのがオチになるだろうと予想していた。
約束された予定や時間が守られないことは、ラテンアメリカではごくごく当たり前のことだ。それにいちいち腹を立てていては、上手くやっていけない。一応、連絡が来たら気付けるように、着信の音量を最大限にして、時差ボケによる眠気に襲われベッドに横になった。どれくらいの時間が経ったのかは不明だったが、部屋の電話が勢いよく鳴り出し、看護師の到着が告げられた。無事に本日中の検査実施という約束に続き、48時間以内という結果の通知も厳守された。人生で5回目のPCR検査となったが、結果は無事に陰性。コロンビア生活は幸先がよさそうなスタートとなった。